大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(ワ)3140号 判決

原告 松本幸

被告 伊藤勇

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し東京都台東区浅草北松山町十三番地にある家屋番号同町一三番木造板葺平家建居宅一棟建坪六坪五合並びに付属の塀その他の工作物を收去してその敷地十二坪一合八勺を明渡し、且つ昭和二十四年六月十三日より本件土地明渡ずみまで一ケ月金百六円四十五銭の割合による金員を支拂え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求める旨申立て、請求原因として、請求の趣旨に表示した土地は元訴外須賀巖と訴外野口嘉津子の共有であつたところ、原告は右両名より昭和二十四年六月十三日これを買受け所有権者となり、同日所有権取得登記手続を経た。しかるに被告は当時より原告に対抗し得べき何等の権限もなく右地上に請求の趣旨に掲げた家屋、塀その他の工作物を所有してその敷地十二坪一合八勺を占有している。よつて原告は被告に対し右家屋その他の物件を收去して右土地の明渡をなすべきことを求めると共に、原告が右土地を所有するに至つた昭和二十四年六月十三日より右土地明渡ずみまで被告の右不法占有により原告の蒙る損害の賠償として右土地の賃料相当額たる一ケ月金百六円四十五銭の割合による金員の支拂を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告の抗弁に対し、被告主張事実中被告所有の建物について所有権保存登記のなされていることは認めるが、その他はすべて否認する。仮に被告の父たる訴外伊藤巳之助が須賀巖より本件土地の使用を許されている事実があるとしても他の共有者たる野口嘉津子の同意がない以上右の使用承諾は無効である。仮にそうでなく、右須賀と巳之助間に本件土地について使用貸借が正当に存するとしても伊藤巳之助は所有者たる右須賀及び野口の承諾を得ることなく本件土地を被告に使用收益させたものであるから、その後本件土地につき所有者となり右使用貸借における貸主たる地位を承継した。原告はこれを理由に昭和二十四年十二月三日付内容証明郵便を以て伊藤巳之助に対し右使用貸借契約解除の意志表示を発し、右は翌四日同人に到達しここに右使用貸借は終了したから巳之助の権利の有効に存続することを前提とする被告の抗弁は理由がない。なお本件建物の内いわゆるはみ出し部分は幅四尺長さ六尺二寸であると述べた。<立証省略>

被告は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中、請求の趣旨に掲げた土地が元訴外須賀巖及び野口嘉津子の共有に属したこと、右地上に被告が請求趣旨に表示のような建物塀その他の工作物を所有して右土地を占有していること並びに本件土地の相当賃料額が原告主張の通りであることはいずれも認めるが、その他は不知又は否認すると述べ、抗弁として、以前本件土地上には須賀巖の母須賀とめ所有の木造二階建二戸建一棟建坪十二坪二階十二坪の建物が存在し、その向つて右側の一戸建坪六坪二階六坪を被告の父訴外伊藤巳之助が賃借して居たところ右建物は昭和二十年三月九日の戰災により燒失した、昭和二十一年秋頃巳之助は本件土地の共有者の一人でこれに関する一切の権限を有していた須賀巖より本件土地十二坪一合八勺を賃料期間の定なく賃借し、被告にこれを使用せしめることについても巖の承諾を得たので被告は右地上に建物を建築するに至つたものである。而して被告は右建物については昭和二十四年三月七日被告名義を以て所有権保存登記をなしている。從つて被告は本件土地全部につき若しくは少くとも本件土地の内巳之助の罹災前の借家の敷地については巳之助の有する借地権を以て原告に対抗し得べきものである。本件建物の内右罹災前の借家の敷地以外にはみ出ている部分は南側幅三尺長さ六尺の部分に過ぎないと述べ、なお原告より巳之助に対し内容証明郵便による使用貸借契約解除の意思表示のあつたことは認めると述べた。<立証省略>

三、理  由

東京都台東区浅草北松山町十三番地宅地十二坪一合八勺がもと訴外須賀巖と訴外野口嘉津子の共有に属していたことは当事者間に爭なく、成立に爭のない甲第一号証及び証人須賀巖、花崎全男の各証言によれば、原告が昭和二十四年六月十二日右須賀及び野口より右土地を買受け翌十三日その所有権移轉登記手続を経たことを認めるに十分である。而して被告が右地上に右賣買当時既に木造板葺平家建居宅一棟建坪六坪五合を建築所有し又塀その他の工作物をも所有し引続き右土地全部を使用占有していることは当事者間に爭ない。

よつて果して被告が本件土地を占有するにつき原告に対抗し得べき権限を有するか否かにつき判断するのに、成立に爭のない甲第一号証及び証人須賀巖、伊藤巳之助、伊藤まつの各証言を綜合すれば、被告の父伊藤巳之助は以前本件地上にあつた須賀幹夫所有の木造二階建二戸建一棟建坪十二坪二階十二坪の建物の内向つて右側の一戸建坪六坪二階六坪を賃借していたが右建物は昭和二十年三月九日の戰災により燒失したこと、当時は本件土地も右須賀幹夫の所有であつたが幹夫は昭和二十年三月十一日死亡し須賀巖と野口嘉津子が遺産相続により前段認定のとおりその所有権を取得したが、その管理一切は巖がなしていたこと、昭和二十一年十一月頃巳之助はその長男の被告に建物を建てさせる目的で巖に対し本件土地全部の賃借を申出でた結果賃料及び期間の定めはしなかつたがとに角巖より賃貸並びにこれを被告に使用せしめることにつき承諾を得これに基き昭和二十二年中若しくは二十三年中被告が右地上に冒頭認定の建物を建築したことを夫々認めることを得る。右認定に反する甲第三号証の記載及び証人花崎全男の証言の一部はたやすく信用し難く他に以上の認定を覆すに足る証拠はない。原告は本件土地のような共有物について共有者一人と契約した貸借は無効であると主張するけれども前に認定のとおり巖が管理一切の権限を有していたと認められるから、同人より賃借する契約を無効とすべき何等の理由もない。しからば被告は少くとも罹災前の巳之助の借家の敷地たる本件土地の内向つて右側の六坪については罹災都市借地借家臨時処理法第二條に從い右巳之助の借地権及びこれに基く自己の使用権を以てその後本件土地につき所有権を取得した原告に対し対抗し得るものであること明かであるが、更に進んで被告が右建物について昭和二十四年三月七日被告名義をもつて所有権保存登記をしたことは当事者間に爭なく右のように賃借人たる巳之助の長男でいわばその履行補助者たる地位にある被告名義をもつて地上に存する建物につき登記がなされてある以上右登記は巳之助の有する本件土地の賃借権を公示するに十分というべきであつて、被告は建物保護に関する法律第一條の趣旨に從い右登記があつた後本件土地の所有者となつた原告に対し本件土地全部について巳之助の有する前示借地権及びこれに基く自己の使用権を以て対抗することを得るものと解すべきものである。

原告は昭和二十四年十二月四日原告が須賀巖及び野口嘉津子と巳之助間に存したとされる本件土地についての使用貸借における貸主の地位を承継したことを仮定して巳之助に対し同人が無断被告をして本件土地を使用收益せしめたとの理由により使用貸借解除の意思表示をしたことは当事者間に爭ないけれども前認定のとおり須賀巖と巳之助間に存じた契約は賃貸借でありしかも巳之助は巖の承諾を得た上本件土地を被告に使用收益せしめたものであるから、原告の右のような解除の意思表示は何等の効果をも生じ得ないといわねばならない。

よつて被告の抗弁は理由があり、被告が本件土地を占有するにつき原告に対抗し得べき正当な権限のないことを前提とする原告の本訴請求はすべて失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五條、第八十九條を適用して主文のとおり判決した。

(裁判官 吉岡進)

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